微生物検査のお仕事(一般の方向け、もっと簡単に)
微生物学的検査は、採取した便、尿、膿、喀痰、咽頭などを培養し、感染症の原因となる微生物を特定するとともに薬に対する感受性(効き具合)を検査します。
培養はこんなかんじで、寒天培地をつかい、菌のコロニーを作り、生えてきた菌がなんなのか?を調べます。
↓黄色ブドウ球菌のコロニー
また、培養だけではなく、顕微鏡を用いて微生物を検査することもやっています。(グラム染色さんより画像お借りしました)
↓グラム染色
真ん中の丸くて黒いのが菌です
画像)
私たちはこういった顕微鏡検査、培地、あるいは遺伝子を駆使して患者さんに感染症原因菌をしらべ、それに有効な抗菌薬(抗生物質)を検査しています。
つまりこういうことですね!
菌・即・斬
知られざる、微生物検査室のお仕事+α
臨床検査技師の担当業務の一つ、微生物検査についての話
平たく言いますと、「感染症を起こしている原因菌を検索し、その菌に対して有効な治療薬を検査するお仕事」でございます。
微生物検査は、感染症の診断・診療に欠かせないものです。
微生物検査をするときは、おおよそ以下の理由によるものかと思います。
①感染症を疑うとき
②保菌検査(妊婦さんGBS、オペ前MRSAスクリーニング等)
②で、目的とする菌が検出された場合は処置中に使用する周術期抗菌薬がその菌に応じたものになったりします。
で、①の場合は…
感染症診療のスタンダード
感染症を疑う
↓
感染臓器の推定+起炎菌の推定
(尿路感染症なら陰性桿菌、皮膚軟部組織感染症なら陽性球菌、肺炎なら肺炎球菌・モラクセラ・インフルエンザ桿菌などなど)
↓
抗菌薬を投与する前に局所培養(尿、痰、膿など+血培等)を採取して、想定される起炎菌に有効な抗菌薬を投与(empiric therapy)
↓
培養結果に応じて、抗菌薬を適宜追加・変更する(de-escalation, escalation)
こんな感じです。
感染臓器+起炎菌の推定はできても、実際にそこに本当に推定した菌がいるかどうかは調べてみないとわかりません。
例えば、発熱と残尿感等で受診した20代女性。仕事が忙しく中々トイレにいけない、という感じの人であればまずは単純尿路感染症を疑うと思います。
CVA tendernessがあれば腎盂腎炎の可能性も高まります。
さて、そうなると、尿検査をしたいところです。
単純尿路感染症の最も多い原因菌は大腸菌ですから、「おそらく大腸菌だろうな」と思いつつ、CTRXとかを投与するわけです。ですが、こればかりは検査してみないとわかりません。
ここで行うのが、微生物検査になります。
微生物検査では、病原体を直接染め分けるグラム染色、生菌を検出し、その菌の正体、薬剤感受性を調べることができる培養検査が主なものとなります。
私たちが実際行っているのはここの部分になります。
グラム染色+患者情報を参考にしながら、目的とする菌を生やすことができる培地を選択し、適切な条件で培養を行い、菌を検出する。
そうすると、当初想定していた病原体と異なるものが出てくることがあります。
そうなると抗菌薬も、検出されたものに対して変更しなければなりません。
微生物検査には、患者の治療方針を変えうる力があります。
こういう、姿のわからないものを…
どんどん調べていって
こういうときもある(CTRXでも解熱するとか言わないで)
複数検出することもある
満を持しての登場
微生物検査はこういう感じの仕事です(さっぱりわからん)
さて、ではこの培養検査が提出されないまま感染症治療を行うと、、
最初に投与していた抗菌薬が合っていたかどうかの判断が難しくなる時があります。
最初はやはり、多くの病原体を想定し治療を始めるので(重症例は特に)どうしても、高価かつ広域な抗菌薬になります。
まあ、大体は解熱しちゃうんですけどね…
そうしますと、本当は抗菌薬に良好な感受性があり、もっと安い抗菌薬で治すことのできた感染症の場合、余計な菌まで殺してしまうことになり、結果として薬剤耐性菌が増えてしまったり、余計治療に時間がかかったりします。
MSSAにおいて、CEZのほうがVCMより優位だと言われているように、広域な抗菌薬=万能ではありません。
不適切な広域抗菌薬の長期使用は、耐性菌のリスクも上昇させますし、医療費も圧迫します。そのため、抗菌薬投与前には培養をとりましょう、と口酸っぱく仰るわけですよね。そして、出てきた菌がスライムレベルの弱いやつなのか、ゾーマクラスなのか(ドラクエ3が好き)を見極めないといけないです。
ということです。
という話を、院内のセミナーでお話させていただいたのですが、この蚊のスライドと、一部の先生に「汚物は消毒だ」のところが評判よかったです(笑)
大事な抗菌薬、後の患者さんに残せるよう、これからも業務を頑張ります!
そして認定取得へ
そんなこんなで、無事に試験が終了するとしばらくは結果が返ってきません。
12月頭くらいに合否通知が届き、年明けには認定証が届きます。
ちなみに、受験したのは2017年です。
昔はICMT(感染制御認定臨床検査技師)は同時申請できなかったみたいなのですが、今は受験時に
(1)認定臨床微生物検査技師の受験申請をすること。
(2)医療関連の感染制御に関する活動実績があること。
(3)所属施設長の推薦があること。
(4)感染制御に関する研修プログラムに参加し、30研修単位以上を取得していること。
を提出し、書類審査で通れば、認定&ICMT取得となります。
研修単位ですが、論文や学会発表をこなしていれば余裕で30はたまると思います。
問題は感染制御に関する活動実績です。
ICT会議に出ている、データを提供している、ICTやASTの一員である、、等箇条書きで提出し、判を押してもらいました。
施設長の推薦も、感染制御部からお話ししていただき、病院長印をいただくことができました。この辺りは時間がかかるかもしれないので、早めに準備しておきましょう。
現在、認定臨床微生物検査技師やICMTに求められる役割は大きくなっています。
以下、抜粋
・多剤耐性菌の増加と蔓延が世界的な問題となっている中で、ICT・AST 業務遂行にあたり、臨床微生物検査技師、特に認定臨床微生物検査技師であるCMTCMおよびICMTの貢献と責任が求められている。
・ICT(院内感染対策)における役割としては、サーベイランスの実施、アウトブレイクへの対応、院内ラウンドへの参加、教育・啓発、地域連携活動におけるリーダーシップの発揮が主要な業務となる。
・AST(抗菌薬適正使用支援)における役割としては、適切なタイミングでの微生物検査結果の報告、適切な検査オーダーの監視とフィードバック、抗菌薬選択に有用な報告の工夫、遺伝子検査や質量分析検査などの迅速検査の活用、教育・啓発活動が主要な業務となる。
・医療や社会からの求めに対応し、所属する施設や地域の医療環境にかかわらず、臨床微生物検査室のベストパフォーマンスを引き出す役割を担うのが、CMTCM 及び ICMT という認定臨床微生物検査技師である。CMTCM や ICMT が複数人いるなど比較的環境に恵まれた施設では、さらなる技量の向上を目指し、地域連携の下で他施設の支援を行い、一方人的物的資源が十分ではない施設では、認定臨床微生物検査技師のいる施設の援助を受けながら、より質の高い感染対策・感染症診療の実現を目指して頂きたい。
当院は幸いなことに、ICMTが私含め複数います。
私はまだまだペーペーですが、認定を目指す方の一助となれば幸いです!
認定取得に関する記事↓
<受験資格取得編>
<筆記試験>
<実技>
<試験結果講評など>
認定微生物取得までの道のり③ 実技編その2
③薬剤感受性検査
ミューラーヒントン培地が置いてあるので、ノギスあるいは定規で阻止円を測定+耐性機序の推定を行います。
後は筆記でVCMやMEPMのブレイクポイントを書かせる問題。
主要な耐性菌のブレイクポイントは把握する必要があります。
MRSA(VCM)
腸内細菌科細菌(IPM MEPM)
MDRP(AMK IPM CPFX)
ちょっと脱線しますが、キノロンのブレイクポイント変わりましたね・・
耐性機序推定に関しては、確認試験を実施した培地も置いてあります。
大体3問くらいですが、最初の阻止円測定はさっさと済ませたほうがいいと思います。
1菌株で6~薬剤くらいあるので、そこでちんたらしてると時間がなくなります。
後、阻止円測定のお決まり事も忘れずに!(反射光・透過光など)
染色済みの標本が置いてあるので、鏡検して、菌種推定。
試験管に顕微鏡の視野を見せます。
二級と違ってグラムは実施しませんでした。
この領域は、もう一つの側面があります。
顕微鏡をきちんと使えるか?です。
芯出し、光軸あわせ、ピント合わせ、終了後はレンズペーパーできれいきれいしましょう。私が受けたときは、レンズペーパーが、風で遠くに飛んでおり、手を伸ばしてキャッチした思い出が…
顕微鏡をきちんと使えてこそのアウトプットがグラム染色結果につながるわけです。
ライトをつける。
接眼レンズを最低にして、ステージを上げる
ピントを合わせる&光軸合わせ(コンデンサやしぼり)
油浸滴下、レボルバーで倍率チェンジ(対物レンズ直接さわらない)
ピントをあわせ鏡検
試験管に見せる
フルスペルで解答用紙に記入
低倍率に戻して、レンズペーパーできれいにする
ステージを下げ、スライドガラスを外す
ここまでできてようやくOKです。
↑ジョジョの奇妙な冒険 第5部 チョコラータ先生
ちなみに、私の時は、ギムザ染色が出て、、、
マラリアがでました/(^o^)\これは予想外
これは完全に落としました(笑)
マラリアくらいは見といたほうがいいのかもしれません。
ちなみにこのときでたのは、Moraxella catarrhalis とムコイド型Pseudomonas aeruginosaでした。
認定取得に関する記事↓
<受験資格取得編>
<筆記試験>
<実技>
<試験結果講評など>
認定微生物取得までの道のり③ 実技編その1
やってまいりました。実技試験編です
①試験管培地+血清凝集
②培地判定
③薬剤感受性検査
④グラム染色+α
実技、と言いつつ、実技試験の中にはちょっとした問題「日本で多いメタロβの遺伝子型は?」 答え『IMP-1or6』
といった問題もくっついていますので、焦らず解きましょう。
さて、実技に共通するのが
菌名はすべてフルスペルです。
もう一度言います。
菌名はすべてフルスペルです。間違ったらアウト(もしかしたら減点対応?かも)
なので、まずはよく出る菌はフルスペルで書けるように練習しましょう!
わたしもルーズリーフにかいてました!
①の試験管培地+血清凝集は
試験管培地による腸内細菌科同定+その中にサルモネラやシゲラがあれば、追加で血清凝集反応をやります。(大体ある)
サルモネラ、ちゃんと書けますか?
Salmonella enterica subsp. enterica serovar Enteritidis
長いですが、ここまで書かないと点はもらえません。
Enteritidisは血清型だからノンイタリック、subsp、serovarも菌じゃないからノンイタリック。こういう細かいところ、チェックされます。
O血清の何がどの血清型かも覚えておきましょう。
(O9ならEnteritidis、O4ならTyphimuriumなど)
私の時は赤痢でした。D群だからsonneiですね。
ここでは、白金耳・白金線の使い方も観察されます。
バーナーの扱い、焼き方等々…。
バーナーのねじが固いこともあるから、火をつける前にチェックするのおすすめです。
ディスポしか使った事ないです!!って人は、ぜひ試験前に焼き方を習っておきましょう。
②の培地判定は、文字の通り
患者背景+培地から菌種推定し、それを記載します。
二級よりは、レベル高めです!
初っ端から、Streptococcus dysgalactiae subsp. equismilisが出てきたときは二級とのレベル差を痛感しました。
わかっていたのにスペルミス、が一番こわいので、これも事前にルーズリーフとかに菌名を書きまくっていましたね。Eikenella corrodensもあったかな。
提出される菌は臨床的に重要なものばかりです。二級よりかは難しめな印象です。
病院の規模によっては、見たことない、というものもあるかもしれません。
そういう方には、微生物ナビ(栄研)などで、主要な菌のコロニー・スペルを確認することをおすすめします。
http://www.eiken.co.jp/products_technique/other/pdf/kensanavi2.pdf
その2へ続く!
認定取得に関する記事↓
<受験資格取得編>
<筆記試験>
<実技>
<試験結果講評など>
認定微生物取得までの道のり② 筆記編
さて、無事に受験資格を手にし、願書も書いた!
後は試験を待つのみ…
認定臨床微生物検査技師の試験は
①英文和訳(辞書不可)ASMやCIDなどのサマリー?
②筆記(選択)
③実技(試験管培地判定+血清凝集、培地判定、薬剤感受性、グラム染色)
に分かれます。おおいですね~朝からお昼過ぎまでやります。
筆記の①+②、実技の③で6割以上で合格です。
でも、①の英文和訳の点数が悪いらしく、今後は①も6割以上になるとかならないとか。
筆記試験の勉強は、二級臨床微生物の過去問を中心にやってました。
感染症法(〇類、BSLなど)、微生物、真菌、ウイルスなど。
丸暗記ではなく、理解して覚えることが大切だと思います。
後、症例問題は必ず出ます。私の時はグラム染色画像+性状が記載されており、Capnocytophaga suptigenaとcanimorsusを鑑別させる問題があって、(カタラーゼでいけますね!)解きながら『おお~』と感心した思い出があります!
後はレミエール症候群、RGMなどなど、グラム染色or培地画像から菌種あるいは抗菌薬を推定させる問題がありましたね。症例問題、治療に関するようなところは二級よりちょびっと難しいです。
単なる暗記問題「NVSを選びなさい」みたいな問題もあります。
でも、’認定’臨床微生物検査技師なので、やはりICTやASTで主戦を担う検査技師のための試験ですから、実臨床に即した問題(菌と疾患の組み合わせ、抗菌薬自然耐性など)が多いです。
これの対策としては、日ごろから学会誌や参考書など、症例に多く触れておくことが重要かと思います。私は上司にくっついて、見習いICTとして血培のカンファなどにちょこちょこ顔を出して、上司がどう答えておられるか?症例のことをわからないなりに勉強していました。
その当時の上司は、本当に頭がまわるかたで常に先を見て行動しておられました。
自施設でカンファレンスが開催されているようなところは、ぜひお供させていただきましょう。自施設で、カンファレンスがないようなところは、自分が担当した症例に対して医師がどう動いているのか、カルテで閲覧するのもいいかもしれません。
英語対策に関してですが、専門用語は辞書なしです。
ですが、それ以外の基礎的な英語は注釈があります。
そして、最も大事なことが’英語でも日本語でも、微生物検査の基本は万国共通’ということです。
血培は冷やさない。アンチバイオグラムは30株を目安に年1更新。検体は抗菌薬投与前に取る。どれも当たり前の事かと思います。
日本の論文でも、必ず最後には英語のサマリーがついていますので、
日本語で論文を読んだ後、後ろのサマリーを読んで、「この単語はこういう意味なんだなあ」とか、「こういう表現なんだな」とふわっと流し見するだけでも全然違うと思います。
③実技に続く!
認定取得に関する記事↓
<受験資格取得編>
<筆記試験>
<実技>
<試験結果講評など>
取得までの道のり① それが難しいんだな
取得までの道のりをつらつらと書きます。
まず、検査技師が取得できる認定資格は分野ごとに存在します。
たいていが経験年数〇年+単位(学会に参加する等でたまる)なのですが、微生物認定の場合経験年数+論文+学会という中々のハードルとなっています。
ただ、受験資格が簡単=試験が簡単ではありません。輸血認定試験は初回で合格するのは2割近く。反対に微生物は、受験資格が難しいものの合格率は8割ほど(悪い年もあったそうですがそれでも7割近く)なので、資格さえ得て、きちんと勉強すればそこまで難しいものではないと思います。
その論文や学会が難しいんだよ!!と思ったあなた。
私自身も、周りの先生方や指導してくれた方に大変恵まれたので経験4年の時に筆頭論文3つ+学会3つを満たすことができました。論文に関しては、私も偉そうなこと言えませんが、まずは既存のものを読み込む、投稿規定を把握する、この論文で自分が言いたいこと(新たな知見があるか?)という、。。。ものすごーく普遍的なことしか書いてませんが、まずは手を動かしてみることが大事なのではと思います。
私が論文を書いたのは新卒2年目、23歳の時ですが、本当にわからないことだらけでした。
いったい何をどうすればいいのかわからなかったし、果てが見えず、その時色々とご指導いただいた先生たちには感謝してもしきれません。
論文には査読が存在し、投稿されたものは査読者によってMajor point、Minor pointに分けて結果が返ってきます。最初の論文は、Major pointに大量の指摘が! 「考察として成立していない」と書かれており、あれを査読してくださった技師さんに、今からでもよいので平謝りしたいです。
英語で書くならいざ知らず、邦文なら、よほどの事がない限りrejectされないかと思いますが、地域で頼りになる技師さんとつながって、アシストしてもらうのも手かと思います。
私も、Drはじめ論文の査読(微生物検査のところなど)を頼まれることもありますし、持ちつ持たれつといいますか、コネクションをもっておくのは大事かと思います。
学会発表に関しては、こんなこといったらあれですが、最初はだれでも緊張するもの。論文も学会も、やってみる、という志が大事なのだと思います。
「でも、この検討は大きな病院でやられているし…」
「この培地はメーカーですでに検討されたものだし…」
仰る通りだと思います。でも、その検討内容をよく見てみると、N数は?対象菌株は?少しでも新しい知見があれば、それは学術的な意味があります。
長くなりそうなので、この話はまたの記事で。
②は、試験勉強編です。
認定取得に関する記事↓
<受験資格取得編>
<筆記試験>
<実技>
<試験結果講評など>