医師に聞く グラム染色結果で期待するところ(初級編)
前回の記事はこちら↓
グラム染色に抵抗がある理由を聞いてみると
医師が何を想定しているかがわからない、という意見をよく聞きます。
そこで、うちの先生に、急ぐ症例ってどんなんですか?と聞いてみたところ、下記の回答をいただきました。
1:致死率が高い
髄膜炎、壊死性筋膜炎
2:起炎菌が多岐にわたるため、菌種推定が困難
入院歴多数、施設入所
3:抗菌薬投与中にもかかわらず改善がない
4:早急な感染対策が必要かしりたい(結核疑い)
5:カルバペネムばかり使っていると馬鹿だと思われる
架空の症例を交え、紹介していきます。
初級編は以下の3つ。
1.急に悪くなった
2.どっちですか?
3.予想外の一言
<1.急に悪くなった>
60代 男性
数日前から感冒症状があったが様子を見ていた。
本日朝、発熱および咳嗽の悪化、悪寒戦慄を認め受診。
肺炎球菌でした。さて、喀痰で医師が知りたいことをうちのICDとしゃべりながらざっくばらんにまとめてみました。
①:良い痰かどうか
質が悪ければ取り直しも考慮しなくてはいけない
好中球が多く、上皮が少ないものが良質な検体と言われていますが、誤嚥性肺炎の場合は上皮と好中球が一体となって認められる場合もあるため、患者背景もしっかり見ることが大事ですね。この症例は、肺炎球菌性肺炎ですが、肺炎球菌の場合はフィブリン塊が析出、背景が汚い?べったりするのが特徴です。
②:感染症を起こしているか
COPD、IPの急性増悪などなど、感染症か、そうでないか鑑別困難な場合がある。
抗菌薬を投与するかしないか、の判断に
左は、白血球の輪郭が崩れています。右は比較的輪郭を保った白血球が認められてます。
肺炎球菌や口腔内常在菌感染では、急性期感染であっても、白血球の輪郭が崩れることがあります。
右の場合は、比較的急性期の炎症でしょうし、左の場合は菌体も認められず、明らかな急性炎症は否定的と考えます。
③:炎症がある場合、どのような菌が見えるか
抗菌薬の選択に影響する
これは言わずもがなですね。市中肺炎では、肺炎球菌やモラクセラ、インフルエンザ桿菌が主要な起炎菌です。
症例2:どっちですか?
50代 女性 特に既往歴なし
1週間前より右下肢に疼痛+
痛みの増強紅斑の拡大を認めたため緊急受診
壊死性筋膜炎として緊急デブリ
さて、ここで医師が「連鎖か、ぶどうか?」という形態を聞いてきました。
壊死性筋膜炎は致死率も高く、早急に抗菌薬投与+創部のデブリが必要です。
一枚でまとめてみました。壊死性筋膜炎の場合、主要な起炎菌は溶連菌ですが、糖尿病患者などでは複数菌種検出されることもありますし、起炎菌の種類も多岐にわたります。また、ぶどう上であれば、MRSAの場合も想定してVCM、連鎖であれば溶連菌に対しての第一選択ペニシリン系+毒素を抑えるためCLDMを併用します。
複数菌種見えている場合は、VCM+MEPMで手広くカバーするわけですが、これだけでも10000円近い薬価がかかります。対して、グラム染色で、単一菌種であることを証明できれば、高くても4000円ほどで済みます。
グラム染色は、病院のお財布にも間接的に影響を与えます。
3症例目 予想外の一言
1歳 女児
生来健康
3日前より発熱、近医受診しフロモックス処方
改善なく昨夜から嘔吐・意識障害出現
細菌性髄膜炎で腰椎穿刺
髄液グラム染色で、陽性桿菌、のちにリステリアが検出されました。
こんなにたくさん見えることはまずありません。
(実はこれも血培のグラム染色です)
そして、リステリアの場合、塗抹陽性率は肺炎球菌性髄膜炎と比べるとがくっと下がります。
髄膜炎は内科的緊急疾患です。年齢別に起炎菌は異なりますが、これはあくまで目安であり、実際ふたをあけてみないとどういった菌がいるかはわかりません。
陽性菌と陰性菌で色分けをしてみました。形態推定ができなくても、陽性か、陰性化だけでも十分助けになりますので(医師いわく)恐れずにグラムやっていきましょう
応用編へ続く