医師に聞く グラム染色結果で期待するところ(応用編)
プロローグ、初級はこちら
応用編は以下の3つで、少しニッチなところを出していきます。
1:熱が下がらない
2:本当にいないんですか?
3:色々みえてます
1:熱が下がらない
10代 女性
細菌性髄膜炎(A群溶連菌)と続発する人工呼吸器関連肺炎いてCAZ+CLDM+ABPC投与中
酸素化悪化、発熱も継続しているため喀痰のグラム染色依頼あり
さて、菌は見当たりません。どうしましょうか?
よーく見ると、微妙に色合いが異なる白血球があるのわかるでしょうか?
菌は陰性ですが、好中球+少し色味が異なり、細胞質も顆粒状の多核白血球が存在しています。ギムザ染色を実施したところ…
好酸球であることが判明しました。慣れれば、グラムでも好酸球の鑑別が可能です。
この症例は、CBCでも好酸球分画が増加、その他所見から薬剤性肺炎を疑い抗菌薬をABPC単剤のみに変更し、その後改善が認められたものです。
この症例のポイントは、グラム染色による炎症背景推定でした。
好中球以外の細胞もある程度慣れればわかるため、生体細胞の判別には以下のメリットがあります。
・好酸球が多数あればアレルギー性の炎症を示唆する所見
(気管支喘息、薬剤性肺炎、ABPA、ABPMなど)
・マクロファージ多数(細胞内寄生菌)レジオネラを想定
・円柱上皮脱落 インフルエンザ、マイコプラズマなど
症例2 本当にいないんですか?
60代 男性 1か月ほど前から咳嗽が出現、近医受診し、細菌性肺炎の疑いでクラビット処方。一旦は収まるも、再度咳嗽の悪化があり受診
さて、病歴を見ただけですごく嫌な予感がします。
喀痰のグラム染色です。壊死物質?でしょうか、とにかく背景が汚いです。
さてさて、、抗菌薬投与にもかかわらず改善しない場合はいくつかの例が考えられます。
・感染症じゃない
・起炎菌のスペクトラムを外している
・投与方法に問題がある、移行性の問題
・遠隔感染巣がある(膿瘍など)
これはどれでしょうか?遠隔感染等、投与方法に問題があれば、新しい好中球・古い好中球が混じった持続炎症像+残ってきた菌が見えてもおかしくありません。
ですが、この像では、崩れた好中球+壊死物質のようなものが見えるだけ。
さて、よく目を凝らすと、何か見えないでしょうか?
何かいますね。というわけでチールネルゼン染色を追加しました。
この症例のポイント グラム染色で、炎症があるのに菌が見えない
・染まりにくい微生物
結核、レジオネラ、その他特殊微生物
・「好中球はあるけど、菌がいない」も立派な所見
抗酸菌・真菌検索等…
ちなみに私は普段、感染症or非感染の鑑別として、弱角で多核白血球≦500を一つの目安として、後は粘液成分、好中球の輪郭など参考に判定しています。
最後の症例
70代 COPD、糖尿病既往 2,3日前から全身倦怠感
呼吸苦で受診
たくさんの菌が見えています。
グラム染色の結果だけでなく、微生物の結果を医師に伝えるうえで大事なことは、
「医師が欲しい情報をセレクションする」ことだと思っています。
例えば、これは喀痰のグラム染色ですが、そこで医師が知りたいこととしてはおそらく、
①検体の品質はどうか?
②感染症っぽいか?
③感染症っぽければ、何か起炎菌っぽいか?
に集約されるでしょう。ここで「グラム陽性連鎖球菌が○○だけいて、陽性桿菌が~」という結果では、上の3つをいずれも満たしていません。
髄液や、膿、血培などは菌種推定が大事ですが、こういった常在菌が入り込む検体では、どちらかというと炎症背景の把握が最重要課題と思っています。
さて、このグラムはどうでしょう。
ゲックラー3
グラム陽性球菌、陰性球菌、陽性桿菌、陰性桿菌が〇+。貪食像あり
となります。ですが、もう少し進んで初見をとってみましょう。
上皮成分+好中球+口腔内常在菌が認められていることから、唾液誤嚥性による炎症を疑う初見ではないでしょうか?加えて、少し観察すると、食物残渣、でんぷん粒のようなものも見えます。
こういった像があるときは、医師に「この患者さん、誤嚥される方ですか?」と聞いてみましょう。
患者家族への聴取で、普段からむせがあることが判明し、グラム染色の結果と合わせて誤嚥性肺炎と診断、ABPC/SBT+嚥下リハを行い軽快された症例です。
さて、こういった症例はよく遭遇します。
その場合、グラム染色の結果と培養は大体
ゲックラー3
グラム陽性球菌、陰性球菌、陽性桿菌、陰性桿菌が〇+。
αーStreptococcus
CNS
Neisseria sp.
GPR
といった風に表示され、(検査センターさんだとこうなるかも)
医師には肝心の「誤嚥性肺炎っぽい」という情報が伝わりません。
身もふたもない話になってしまいますが、結局はグラム染色も、色々な症例があるのでその場その場の医師とのコミュニケーションになると思いますが、こちら側もある程度向こうの考えを知っておくことでよりよい感染症治療につながるのでないでしょうか。
って話を技師さん向けの研修会で話したらみんなDIO様のスライドしか覚えてませんでした。(オチ)
グラム染色の至急、どしどしご依頼ください